これは、効果測定についての話の流れで出てきたトピックです。レポートの課題文は、「教科書の効果測定についての箇所(「相談援助の理論と方法I」第11章第3節)を800字で要約しなさい」というものでした。
効果測定(効果があったかを調べる)とは、要するに「援助やサービス」と「利用者ニーズの充足や課題解決」の間に因果関係があったかどうかを調べるということです。因果関係は、一見してありそうな感じはするものの、本当にあることを証明するのは簡単ではありません。その証明の代表的な手法が、集団比較実験計画法と、単一事例実験計画法です。
集団比較実験計画法(集団比較実験デザイン)
これは自然科学系の実験ではごく一般的な手法だと思います。実験には同じ状態の対象が少なくとも2つ必要で、できれば100くらい対象があったほうが説得力があります。同じ状態の実験の対象者を無作為に2群に分けて、片方には介入をし(こちらを実験群と呼びます)、もう一方には何もしません(こちらを統制群と呼びます)。介入以外の条件は2群とも全く同じにすることで、2つの群に差異が生じたときには、介入が原因であろうと考えられます。
たとえば、植物の種をまいて発芽させた双葉(大きさはほぼ同じ)を100個用意して、50個ずつの2群に分けて、同じ場所に並べ(日当たりや気温の条件を同じにして)、片方の群には毎日、水やりと一緒に物質Xを与え、もう一方の群には水やりだけをする、という実験を10日間続けたとします。このとき、物質Xを与えた群だけが、大きく成長したとしたら、「物質Xにはこの植物の成長を促進する作用がある」と考えられます。
単一事例実験計画法(シングル・ケース・デザイン)
この実験では、対象は1つだけです。ある対象の、介入前の状態をまず観察します。それから、介入をして、介入後の状態を観察します。介入の前と、後の状態を比較して、差異が生じたときには、介入が原因であろうと考えられます。
たとえば、マウスを1匹用意して、心拍数を測ります。それから、物質Yを注射して、注射したあとの心拍数を測ります。注射の後のほうが、心拍数が著しく上がっていたら、「物質Yはマウスの心拍数を上げる作用がある」と考えられます。
因果関係の証明の手続きとしてすぐれているのは、集団比較実験計画法です。統制群があることで、結果の差異の原因が「介入」だけに絞られるからです。単一事例では、他の要素が原因である可能性が否定できません。例で言うと、物質Yとは無関係に注射の痛みで興奮して心拍数が上がったのかもしれませんし、たまたま実験室の気温が上がったのが原因かもしれませんし、あるいは実験につかったその1匹が「2回目の心拍測定では心拍数が上がる」という性質のマウスだったのかもしれません。
ですが、実際の相談援助の場面では、単一事例実験計画法のほうがよくつかわれています。これは、集団比較でやろうとすると実際にはコストがかかりすぎることと、統制群へは介入をしないことに倫理的な問題があることによります。例のように、双葉の苗であれば100個でも庭先においておけますが、実務の場面でたとえば虐待問題を抱え同じ状態にある家庭を100事例も担当していることは不可能です。たとえ100の同じような虐待案件を担当していたとしても、そのうち50件には介入をし、残り50件には何もしないでいるというのも、問題です。
…このように書いていると、ずいぶん長くなってしまいます。800字では具体例を書いている余裕はなくて、抽象的な説明になりました。それでも、返ってきたときに「わかりやすいです」と個別にコメントがついていたのがうれしかったので、どなたかのご参考になればとここに書きました。
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